ウクライナ / クリミア危機: 中央アジア, サウス・ストリーム


現在のウクライナ情勢に関する覚書。中央アジア諸国にとって今回のロシアの動きが持つ意味、及び欧州連合にとって安全保障上ロシアへのエネルギーの依存がもたらす問題について。

ウクライナ情勢おさらい

ウクライナがどういう状況にあるかをざっとおさらいしておこう。

  • 2 月 18 日: ウクライナの首都キエフで大統領権限を制限する 2004 年憲法の復活を求める反政府派の市民と警察が衝突、以後数日にわたって騒乱拡大。
  • 2 月 21 日: 2004 年憲法の復活が全会一致で議決。ユリア・ティモシェンコ元首相釈放。
  • 2 月 23 日: ウクライナ議会、ヤヌコビッチ大統領の職務権限を停止。トゥルチノフが大統領代行に任命される。
  • 2 月 27 日: ロシア軍とみられる武装集団が、「クリミア自治共和国 ((しかし、「自治共和国」という名前は皮肉であると思う。本当に自治を行っているなら、名前に「自治」とは付けないだろう。)) 」として特別な地位を憲法上与えられているウクライナ南部のクリミア半島の政治的要地を占拠。
  • 3 月 01 日: ロシア議会、クリミアへのロシア軍の派遣を承認。
  • 3 月 06 日: クリミア最高評議会、ロシア連邦への参加を議決、住民投票開催を決定。
  • 3 月 16 日: クリミア自治共和国およびセヴァストポリ特別市で住民投票。圧倒的多数の賛成によりウクライナからの離脱およびロシア連邦への加盟が決定される。
  • 3 月 18 日: プーチン露大統領、クリミア及びセバストポリ特別市のロシア連邦加盟に関する条約に調印。

もちろん、厳密にいえば、この住民投票はウクライナ憲法に違反している。憲法では、「領土の変更問題は国民投票のみで議決できる」と規定しているからだ。日本国外務省もこの住民投票は無効であり、承認しないとの声明 を出しているし、G7 および欧州連合としても ロシアによるクリミア併合を批判する声明 を発表している。

プーチン大統領はコソボの例を出して、西側がこの住民投票を認めないのはダブルスタンダードであり、また、現在のウクライナの政権に正統性はないと主張しているが、国際連合の安全保障理事会においても、他国の支持を得ることはできなかった。

中央アジア諸国の受ける衝撃

さて、第一の記事だ。Russia-Ukraine Crisis Alarms Central Asian Strongmen – ISN Blog によれば、今回のウクライナ・クリミア危機は、中央アジア諸国にとって、ふたつの面で大きな衝撃である。ひとつは、自国の権威主義体制を、ユーロマイダンがヤヌコビッチを打倒したように、人民による運動によって転覆されてしまうのではないか、というおそれ。もうひとつは、ロシアがクリミアで行ったことを、自国のロシア人居住地域においても行われるのではないか、というおそれである。

この地域には、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、キルギスがある ((厳密には、東トルキスタン、すなわち中華人民共和国新疆省も含める場合があるが、ここでは省く)) が、キルギス以外の国々は権威主義な体制を保持している。カザフスタンでは ヌルスルタン・ナザルバエフ 大統領がソ連崩壊以後一貫して指導者の地位に付いているし、ウズベキスタンでは イスラム・カリモフ 大統領が、タジキスタンは エモマリ・ラフモン 大統領が似たようなことをしている。トルクメニスタンは今でこそ多少改善したようだが、サパルムラト・ニヤゾフ 大統領時代はひどいものだったらしいし、いまでも民主党による一党独裁が続いている。

つまり、これらの国々の政権は、常に革命におびえているのだ。ユーロマイダンの成功にあやかって政権打倒のためにデモをしだす連中が現れたらたまったもんじゃない。その上、カザフスタン北部やにはロシア人が大量に住んでいる。「住民投票の結果この地域はロシアに合流しますね」なんて言われたら踏んだり蹴ったりである。今のところ、これらの国のメディアは沈黙を保っているということだが、これからはどうなることやら。

キルギスは比較的民主化が進んでいる国だが、経済的にはロシアに大きく依存しているため、ルーブル下落の影響をもろにくらってしまっている。通貨ソムはクリミアが占領てから 15% も下がり、ドルとソムの交換を拒否する業者も現れているらしい。ロシア連邦がくしゃみをすれば、キルギスは風邪をひく、というわけである。

欧州連合、ロシア、サウス・ストリーム

第二の記事。After Ukuraine: Enhancing Europe’s Gas Security は、ロシア・ガスプロムに依存しきっているヨーロッパのエネルギー政策の問題点を指摘しながら、将来に向けた提言を行うものだ。

シンクタンクのペーパーというだけあって、わかりやすくまとまっているので、ポイントをざっと訳す。

筆者の見解では、そもそもロシアに対するエネルギー的な依存がなければ、そのクリミア「侵略」に対してより強い発言・行動を行うことができたはずである。また、現在建設中の「サウス・ストリーム」は、この関係を欧州にとってさらに不利なものにする ((サウス・ストリームに関しては、「サウス・ストリーム」とは何か – Kousyoublog も参照。)) 。これは安全保障上の大きな問題である。

これを逆手に取る唯一の方法は、それが欧州の厳しい独占禁止政策に容赦なく晒されるようにすることだ。他のエネルギー資源や供給源の存在を意識しつつ、サウス・ストリームに関するいかなる例外的処置に対しても断固として反対することが重要である。

背景

  • 2011 年までは、ガスプロムは、主に陸上のパイプラインを利用して 190 bcma (年間1900億立方米) の天然ガスを欧州連合に対して供給していた。その8割はウクライナを経由していた。
  • 2011 年にバルト海を通ってロシアからドイツへとガスを供給するノルド・ストリームが開通。2012 には 55 bcma に達した。コストは 160 億ユーロ。独・仏・蘭の共同運用。
  • 2015 年からは、黒海を通ってブルガリア、セルビア、ハンガリー、スロベニア、そしてオーストリアへとガスを供給するサウス・ストリームが開通予定。コストは、予想では 550 億ユーロ。主にロシアによる国内投資。現在ウクライナを通っているガスの少なくとも 2/3 がサウス・ストリームを通る。伊・独・仏共同運用。欧州内を通る部分はガスプロムと当該国の共同開発。
  • ガスプロムは現在、サウス・ストリームの規制に関して欧州連合と諍いを起こしている。欧州連合の規定するルールからの例外を要求しているわけではないが、パイプラインの容量に関してガスプロムが長期的に決定権を握る「オープン・シーズン」式の導入を要請している。
  • ロシア中央銀行によれば、2012 年の欧州及びトルコへの輸出量は 113 bcm であった。Q3 までの数字をベースに、2013 年の輸出量は 136 bcm と予想される。これは欧州連合のガス消費の 30% に当たる数字。

主張

  • ロシアは、天然ガスの第一供給者というポジションを利用して、競争的な欧州のエネルギー市場を汚染しようとしている。
  • 欧州連合は、その市場の大きさをロシアに対する優位に変換しなければならない。
  • サウス・ストリームのような新しいパイプラインは、欧州連合の戦略的自立性を弱めるため、反対せねばならない。
  • 欧州連合は、「競争的な市場」というビジョンにこだわるべきだ。自らのルールを曲げてはならない。

様々なアクターの思惑が噛み合うこの問題だが、これからこの危機がどうなるかについて、わたしは正直なところ見通しを持たない。一部では「冷戦の再開」という声もあるようだが、ロシアには当時のソ連ほどの力は既に残されていないだろう。米露二極化というよりかは、冷戦崩壊以降継続してきた多極化傾向の更なる先鋭化、という見方が正しいように思われる。

2 Comments

  1. 政権妥当 → 政権打倒

コメントを残す

Your email address will not be published.

To create code blocks or other preformatted text, indent by four spaces:

    This will be displayed in a monospaced font. The first four 
    spaces will be stripped off, but all other whitespace
    will be preserved.
    
    Markdown is turned off in code blocks:
     [This is not a link](http://example.com)

To create not a block, but an inline code span, use backticks:

Here is some inline `code`.

For more help see http://daringfireball.net/projects/markdown/syntax

*

© 2017 The Long Wait

Theme by Anders NorénUp ↑