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Brexit: EU離脱投票でイギリスはどこへ行くのか?

いわゆる「Brexit」をめぐる英国の国民投票で離脱派が多数を占めることが確定して数週間が経過した。イギリスの政治は明らかに混乱している─離脱派の政治家たちは実際に離脱派が勝ったことを寧ろ残念がっているようだ(UKIP党首ナイジェル・ファラージは職を辞したし、元ロンドン市長ボリス・ジョンソンは現首相キャメロンの後釜を選ぶ選挙に立候補しなかった)し、残留派の保守党も労働党も完全に混乱に陥っている(保守党党首かつ現首相デイビッド・キャメロンは辞職を表明し、労働党党首ジェレミー・コービンは議員たちから不信任投票を行われた)。スコットランドは再度独立投票を行う可能性を示唆しているし、ロンドンも独立に向けたペティションが行われている。1ポンドの価値は160円台から130円台にまで急落したし、ポンドの格付け自体も最高であるAAAから落ちることとなった。

その中で政治的に興味深い動きがひとつあるとすれば、Constitution Reform Group であろう。CRGは超党派の団体で、現在の中央集権的な連合王国を解体し、イギリスを複数の地域からなる連邦的国家を作りなおすことを提案している。スコットランド、北アイルランド、ウェールズ、そして勿論イングランドはそれぞれ主権を持ち、議会を持ち、そしてその上で政治、外交、国防と経済に関する主要な制度を共有することになる。具体的には、軍隊や通貨、外交員、所得税、官庁などの基礎的な制度的インフラ郡である。これが実現すれば、連合王国を構成するそれぞれのネーションは、今よりも遥かに自由に自らを治めることができる。

実際これは良い提案だと思うが、これで(例えば)イングランドのみが欧州連合を離脱し、スコットランドは残留するといったようなことが可能かどうかは正直微妙であると思う。そもそも欧州連合の側がそういったメンバーシップのあり方を認めるかどうかは不明瞭であるし、仮にそうなった場合、スコットランドとイングランドの間に国境管理所ができることになれば、相当異様な事態である。勿論イギリスの市民権を持っているものは移動することができたとしても、管理があること自体がある程度移動の自由を阻害する。通貨についても、その政策がどの程度欧州によって影響されるのかがわからない。

以下、FAQに対するまとめ。

Q. 三行で今までの経緯をまとめてくれ

グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(通称イギリス)は、欧州連合を離脱するか否かを問う国民投票を6月23日に実施した。結果は 52% 離脱 (1741万票) – 48% 残留 (1614万票) となり、離脱が多数派。投票率は 72% だった。首都であるロンドン、スコットランド、北アイルランドでは残留が多数派であった一方、イングランドとウェールズのほとんどでは離脱派が多数であった。

Q. これで英国の欧州連合離脱が確定したのか

否。厳密に言えば、英国の欧州連合離脱がまだ確定したわけではない。英国は議会主権主義であり、この国民投票の結果に厳格な法的拘束力はない。だから、庶民院が正式に欧州連合離脱を決議するまでは、欧州連合離脱のプロセスを始める法的な必然性はないのである。だが、政治的には、国民はその意思を示したのであって、それを無視することは難しいだろう。

Q. どうして離脱派が勝ったのか?

一概に原因を特定することは難しいが、大きな原因は、普段労働党に投票している労働者階級の人々が離脱に票を投じたことであろう。労働党の議員たちは基本的に皆残留派であったが、例えば伝統的に労働党が強いはずのウェールズや、北イングランドなどでは圧倒的に離脱派が多数であった。

ある労働者は、「カネがあるやつは残留派、カネがないやつは離脱派」と言ったという。ステレオティピカルな言説だが、移民労働者によって職が奪われているという確信が多くの労働者階級の人々にはあるようだ─それが真実かどうかは別として。

また、40代以下は残留を支持する一方で、50代以上の人々は離脱支持派が大多数であり、また後者の人々のほうが投票率が高い、ということも一員であろう。階級間だけではなく、世代間でも対立があったということである。

Q. そもそもどうして国民投票を実施したのか?

保守党の内部的な政治の結果である。伝統的に英国においては欧州懐疑派と呼ばれる人々がそれなりに強く、そういった人々、及びまた欧州懐疑派による政党である英国独立党(UKIP)支持者などから信任を得るための手段としてキャメロンは国民投票を使ったといえるという認識だ。勿論彼は当初本当に離脱派が多数を占めるとは思っていなかっただろう。

ところで日本の参院選は与党の大勝に終わったようである。それぞれの政党のマニフェストを読んでいても、もはや我々には自ら立党する道しかないのではないか、とわたしは思うし、実際、ありうるマニフェストを作ってみても良いかもしれない。

Charlie Hebdo: 理性の宗教か、ムハンマドの宗教か

イスラームと表現の自由の対立は既に21世紀の政治における古典的問題になった感があり、この度改めて論じるべき新しい論点は既にないかもしれない。

多くの識者が指摘されている通り、ここに論理的な解決を望むのは間違っている。ふたつの相容れない価値観はお互いどうしても譲れない一点で争っており、議論を整理することは対立を明確化し先鋭化することである。西洋としては宗教への批判及び風刺は表現の自由によって守られるべきものである─それによって欧州は近代を築き上げたのだ。しかしイスラームとしては当然ながらその信仰の絶対的基礎たるムハンマドを描くことは万死に値する涜神行為である。これは宗教的対立なのだ─フランス共和国における理性への信仰をひとつの宗教とみなすならば。

その際、どちらの陣営にも属していない吾々日本人のような半端者にできることがあるとすれば、それは、どちらかの側に立って他方を糾弾することではなく、あるいは議論を整理しどちらが正しいか見極めようとすることでもなく、どちらの議論にもそれなりの理ありとしつつ、お互いが平和的に併存するしかた─「共存共栄」は不可能であるとしても、お互いに攻撃しあうことなく存在し続けられる落としどころ─を見つけようとすることかと思う。

吾々に言えるのは、それくらいのことだ。

いずれにせよ亡くなられた人々および遺族の苦しみを思うと心が痛みます。謹んで哀悼の意を表します。

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欧州議会選について思うこと

欧州議会選が行われ、フランスの国民戦線 (Front National) やイギリスの連合王国独立党 (UK Independence Party) — いつから連合王国は独立でなくなったのだ? — が躍進したという。

まあ、そうだろうな、と思う。フランスで国民戦線が支持を伸ばしていることは今年前半に行われた地方選挙で明らかであった。イギリスにおいても、移民の受け入れ — 特に問題とされているのはヨーロッパからの移民だ — と多文化主義政策のバックラッシュとして、独立党は労働者を含む層から急速に支持を伸ばしている。スウェーデンだって、オランダだって、欧州連合に加盟してはいないがスイスだって、どこもナショナリスティックな気分が高まっていることは世界的に同じだ。もちろん、日本でも。

「ヨーロッパ市民」という幻想は、結局、今のところは、より強いリアリティを持って迫ってくる「ネーション」という想像の共同体を挿げ替えることができていない。どっちにしろ幻想であることは変わらないのだが、ネーション=ステートという制度的枠組みによって絶えず再生産を行うことができる点が大きく違う。ヨーロッパ、という地政学的想像は、未だ共同体としての同一性を持ちうる程の強靭さを持ち合わせていないのである。

それを何とかするのが憲法パトリオティズムであったはずだが、そもそも「前-理論的」に植え付けられる共同体の想像を、ガチガチの理性的な枠組みによって支えようということに袋小路がある。もちろんリベラル・ナショナリズムは現状をただ追認し変革を生み出す力を全く持たない、規範的には出来損ないの理論だが、かと言って憲法パトリオティズムが現状を変革する力を持つかといえば、否、という気がしている。

共同体を現実的に想像させるために必要なのは理論ではなく政治的行為なのである。それを構成的と呼んでもよいし神話的と呼んでもよいが、その指示内容は変わらない。問題は、それをいかにして、誰が行うか、ということである。

ウクライナ / クリミア危機: 中央アジア, サウス・ストリーム

現在のウクライナ情勢に関する覚書。中央アジア諸国にとって今回のロシアの動きが持つ意味、及び欧州連合にとって安全保障上ロシアへのエネルギーの依存がもたらす問題について。

ウクライナ情勢おさらい

ウクライナがどういう状況にあるかをざっとおさらいしておこう。

  • 2 月 18 日: ウクライナの首都キエフで大統領権限を制限する 2004 年憲法の復活を求める反政府派の市民と警察が衝突、以後数日にわたって騒乱拡大。
  • 2 月 21 日: 2004 年憲法の復活が全会一致で議決。ユリア・ティモシェンコ元首相釈放。
  • 2 月 23 日: ウクライナ議会、ヤヌコビッチ大統領の職務権限を停止。トゥルチノフが大統領代行に任命される。
  • 2 月 27 日: ロシア軍とみられる武装集団が、「クリミア自治共和国 ((しかし、「自治共和国」という名前は皮肉であると思う。本当に自治を行っているなら、名前に「自治」とは付けないだろう。)) 」として特別な地位を憲法上与えられているウクライナ南部のクリミア半島の政治的要地を占拠。
  • 3 月 01 日: ロシア議会、クリミアへのロシア軍の派遣を承認。
  • 3 月 06 日: クリミア最高評議会、ロシア連邦への参加を議決、住民投票開催を決定。
  • 3 月 16 日: クリミア自治共和国およびセヴァストポリ特別市で住民投票。圧倒的多数の賛成によりウクライナからの離脱およびロシア連邦への加盟が決定される。
  • 3 月 18 日: プーチン露大統領、クリミア及びセバストポリ特別市のロシア連邦加盟に関する条約に調印。

もちろん、厳密にいえば、この住民投票はウクライナ憲法に違反している。憲法では、「領土の変更問題は国民投票のみで議決できる」と規定しているからだ。日本国外務省もこの住民投票は無効であり、承認しないとの声明 を出しているし、G7 および欧州連合としても ロシアによるクリミア併合を批判する声明 を発表している。

プーチン大統領はコソボの例を出して、西側がこの住民投票を認めないのはダブルスタンダードであり、また、現在のウクライナの政権に正統性はないと主張しているが、国際連合の安全保障理事会においても、他国の支持を得ることはできなかった。

中央アジア諸国の受ける衝撃

さて、第一の記事だ。Russia-Ukraine Crisis Alarms Central Asian Strongmen – ISN Blog によれば、今回のウクライナ・クリミア危機は、中央アジア諸国にとって、ふたつの面で大きな衝撃である。ひとつは、自国の権威主義体制を、ユーロマイダンがヤヌコビッチを打倒したように、人民による運動によって転覆されてしまうのではないか、というおそれ。もうひとつは、ロシアがクリミアで行ったことを、自国のロシア人居住地域においても行われるのではないか、というおそれである。

この地域には、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、キルギスがある ((厳密には、東トルキスタン、すなわち中華人民共和国新疆省も含める場合があるが、ここでは省く)) が、キルギス以外の国々は権威主義な体制を保持している。カザフスタンでは ヌルスルタン・ナザルバエフ 大統領がソ連崩壊以後一貫して指導者の地位に付いているし、ウズベキスタンでは イスラム・カリモフ 大統領が、タジキスタンは エモマリ・ラフモン 大統領が似たようなことをしている。トルクメニスタンは今でこそ多少改善したようだが、サパルムラト・ニヤゾフ 大統領時代はひどいものだったらしいし、いまでも民主党による一党独裁が続いている。

つまり、これらの国々の政権は、常に革命におびえているのだ。ユーロマイダンの成功にあやかって政権打倒のためにデモをしだす連中が現れたらたまったもんじゃない。その上、カザフスタン北部やにはロシア人が大量に住んでいる。「住民投票の結果この地域はロシアに合流しますね」なんて言われたら踏んだり蹴ったりである。今のところ、これらの国のメディアは沈黙を保っているということだが、これからはどうなることやら。

キルギスは比較的民主化が進んでいる国だが、経済的にはロシアに大きく依存しているため、ルーブル下落の影響をもろにくらってしまっている。通貨ソムはクリミアが占領てから 15% も下がり、ドルとソムの交換を拒否する業者も現れているらしい。ロシア連邦がくしゃみをすれば、キルギスは風邪をひく、というわけである。

欧州連合、ロシア、サウス・ストリーム

第二の記事。After Ukuraine: Enhancing Europe’s Gas Security は、ロシア・ガスプロムに依存しきっているヨーロッパのエネルギー政策の問題点を指摘しながら、将来に向けた提言を行うものだ。

シンクタンクのペーパーというだけあって、わかりやすくまとまっているので、ポイントをざっと訳す。

筆者の見解では、そもそもロシアに対するエネルギー的な依存がなければ、そのクリミア「侵略」に対してより強い発言・行動を行うことができたはずである。また、現在建設中の「サウス・ストリーム」は、この関係を欧州にとってさらに不利なものにする ((サウス・ストリームに関しては、「サウス・ストリーム」とは何か – Kousyoublog も参照。)) 。これは安全保障上の大きな問題である。

これを逆手に取る唯一の方法は、それが欧州の厳しい独占禁止政策に容赦なく晒されるようにすることだ。他のエネルギー資源や供給源の存在を意識しつつ、サウス・ストリームに関するいかなる例外的処置に対しても断固として反対することが重要である。

背景

  • 2011 年までは、ガスプロムは、主に陸上のパイプラインを利用して 190 bcma (年間1900億立方米) の天然ガスを欧州連合に対して供給していた。その8割はウクライナを経由していた。
  • 2011 年にバルト海を通ってロシアからドイツへとガスを供給するノルド・ストリームが開通。2012 には 55 bcma に達した。コストは 160 億ユーロ。独・仏・蘭の共同運用。
  • 2015 年からは、黒海を通ってブルガリア、セルビア、ハンガリー、スロベニア、そしてオーストリアへとガスを供給するサウス・ストリームが開通予定。コストは、予想では 550 億ユーロ。主にロシアによる国内投資。現在ウクライナを通っているガスの少なくとも 2/3 がサウス・ストリームを通る。伊・独・仏共同運用。欧州内を通る部分はガスプロムと当該国の共同開発。
  • ガスプロムは現在、サウス・ストリームの規制に関して欧州連合と諍いを起こしている。欧州連合の規定するルールからの例外を要求しているわけではないが、パイプラインの容量に関してガスプロムが長期的に決定権を握る「オープン・シーズン」式の導入を要請している。
  • ロシア中央銀行によれば、2012 年の欧州及びトルコへの輸出量は 113 bcm であった。Q3 までの数字をベースに、2013 年の輸出量は 136 bcm と予想される。これは欧州連合のガス消費の 30% に当たる数字。

主張

  • ロシアは、天然ガスの第一供給者というポジションを利用して、競争的な欧州のエネルギー市場を汚染しようとしている。
  • 欧州連合は、その市場の大きさをロシアに対する優位に変換しなければならない。
  • サウス・ストリームのような新しいパイプラインは、欧州連合の戦略的自立性を弱めるため、反対せねばならない。
  • 欧州連合は、「競争的な市場」というビジョンにこだわるべきだ。自らのルールを曲げてはならない。

様々なアクターの思惑が噛み合うこの問題だが、これからこの危機がどうなるかについて、わたしは正直なところ見通しを持たない。一部では「冷戦の再開」という声もあるようだが、ロシアには当時のソ連ほどの力は既に残されていないだろう。米露二極化というよりかは、冷戦崩壊以降継続してきた多極化傾向の更なる先鋭化、という見方が正しいように思われる。

アンネシュ・ベーリング・ブレイビク: ネット世界の狭いビジョン

以下は、トマス・ハイランド・エリクセンによる Anders Behring Breivik: Tunnel vision in an online world の全訳である。エリクセンは、ノルウェーの人類学者。ナショナリズムやエスニシティにかんする書籍を多数著しており、ブレイビクの1500頁にわたる「マニフェスト」で、唯一「ノルウェーの堕落の象徴」として名指しされた学者である。このエッセイは、インターネットによる選択的な情報の摂取がブレイビクの狭い世界観を形成したのであって、より広い目で世界を見るために新聞などの紙媒体で情報を収集することが重要だ、という論調になっている。その内容そのものに対しては色々と思うところがあるが、ノルウェーにおいて先の事件についてどのような言論が展開されているかを表す文章ではあると感じて訳すことにした。訳の正確性は保証しない。

アンネシュ・ブレイビクの世界観は、オンラインゲームと反イスラームのブロゴスフィアによって形成されたものと言えそうだ。社会が分裂していることを良く表している。

ノルウェーの警察がそこまで極右の活動に注意を払ってこなかったのには理由がある。単純に、そこまで目立っていないのだ。ノルウェー国内で極右を自称している人間は40人と予想されている。

しかし、ブロゴスフィアの暗部に詳しい人間ならば、インターネット上で激しい憎悪をまき散らしている存在に何年も前から気付いていた。「腐敗した多文化主義のパワー・エリート」を批判し、特にムスリムの移民について侮辱的な一般化を行う言論を生み出す人々である。

これらのウェブサイトやブログ、チャットグループに書き込みを行っている人間は、単に「右翼」というわけでは不十分である。「イスラーム化反対フォーラム」のあるメンバーは、同時に社会主義左翼党の党員でもあった。他の人々も、自らを社会民主主義的可知の体現者と見なしたり、啓蒙の火を燃やし続ける最後の砦だと主張したりしている。もちろん、より定型的な右翼的観点を保持している人々もいる。レイシズムをあらわにする者から、西欧をムスリムが計画的に乗っとろうとしているとする陰謀論者まで。毎日書き込みを行うものもいれば、月に一回やってくるものもいる。彼らが形成する緩やかなネットワークは、その数を予想することを困難にしている。

これらの人々が共通に持っているものは、まず、多様性の擁護者たちに対するルサンチマンである。これらの「エリート」は「反逆者 traitors」、「売国徒 sellouts」、「ナイーブな多文化主義者 naive multiculturalists」と呼ばれる。イスラームは西洋の民主的価値とは相容れない、ということも広く信じられている。この観点は、15万のムスリム人口(しかも増加中)を抱える国にあっては非常に問題だ。そのような考えがどれほど人口に膾炙しているか知るよしもないが、無力で無害なものとして片付けてしまうことはもはやできない。

今回、ブレイビクがはやりの服と髪型で着飾り、オスロのウェスト・エンドから来た国産のテロリストである─髭を生やした外国産のテロリストではない─という事実は、単に上記のネットワークのより詳細な検討のみではなく、ノルウェーの自己イメージそのものに対する冷靜な、しかし批判的な省察へと繋がるべきだ。ノルウェーという国の成員となるためには、宗教や肌の色はまったく関係がない、ということを我々のリーダーが明確にすることは多くを安堵させるだろう。1905年から1957年まで王位に就いていたホーコン7世は、自身が「共産主義者の王でもある」という有名な台詞を残した。ハーラル5世もまた、自身が「ノルウェーのムスリム、シーク教徒、ユダヤ人、そしてヒンドゥ教徒の王でもある」ことを明確にすることが、現在の状況に対する最善の応答となるだろう。それは言うまでもないことなのかも知れないが、このような言明は、強い排外主義と宗教的偏見がことばを失うほど凄慘な行為の思想的なインスピレーションとなってしまった今日の空気を少しでも清淨化する機能があるはずだ。

どんな国も、ある程度の繋がりが必要だ。それが実際にいかほどのものかは、正統な議論の対象とすることができる。文化的多元主義は国の分断と信用の失墜へと繋がると考えるものもいるだろう。それはある場面ではそうかも知れないが、常に真実であるわけではない。教育や住宅供給、仕事といった共通のインフラや制度がきちんと公平に機能する限り、社会は多様性を受け入れながら存続することができるはずだ。しかし、我々が対話を止めてしまった瞬間、崩壊は忍び寄ってくる。これが、ブレイビクとそのシンパたちに起こったことだ。彼らはインターネット上で別の現実を作り上げてしまったのだ。

インターネットによる公共圏の分断は学問上及びジャーナリズム上の関心事となってきた。ここ最近では、エリ・パリサー Eli Pariser の The Filter Bubble が、いかにして Google や Facebook といったインターネット企業が、我々のウェブ検索やアップデートを、ユーザープロフィールや過去の検索履歴に基づいてフィルタしているかをよく描き出している。私が環境保全主義者であれば、Google で「気候変動」と検索した際、石油会社の重役であるあなたとは異なった結果を得る、というわけだ。このフィルター・バブルはたとえば Amazon でも最適化されたオススメを表示したりする。知らない間にそれは我々のウェブ検索の背後で動作し、我々が気付かぬうちに既存の世界観の再生産を促すのだ。結果、我々はお互いにはぐれてしまい、異なった世界に住むことになる。

ブレイビクは自らイスラモフォビアや極右的なウェブサイトによって洗脳されることを望んだのだろう。けれども、もし彼が情報を新聞から摂取していれば、そこにはヨーロッパの自信の失墜や軍事的イスラームの勃興以外のニュースが記載されていただろう。あの週末の衝撃と不信から一つ学ぶことがあるとすれば、文化的多元主義は国民的な団結に対する脅威とは必ずしもならないかも知れないが、インターネットを通じた選択的な情報の摂取から得られる狭い世界観は脅威となる、ということである。

オスロ・テロリズム: 犯人は反多文化主義のノルウェー人極右

先週の金曜日に発生して欧州を騒がせたオスロのテロは、最終的に、反多文化主義のノルウェー人極右が単独犯で起こしたものであると言うことのようだ。事件の様相に関しては、以前まとめた二つの記事を参照してほしい。

事件発生当初、情報がまだ出回っていなかった頃は「イスラームの国際テロ組織アルカイダの犯行ではないか」という反応が大勢を占めていた。しかし、「拘束された男が白人である」という情報が入ってからは徐々に趨勢が変化し、最終的にはノルウェー人による単独の犯行であると言うことが一日たつとほぼ確定した。以下、いくつか興味深かった事実を覚え書き程度に記しておく。

「テロリスト」か、「銃撃犯」か?

日本の報道機関は多く「テロ」と名指して報道している(例:asahi.com:移民・イスラムに敵意 ノルウェー、テロ容疑者大量声明 – 国際)が、英語で手に入る情報は多くが「ノルウェー銃撃事件 Norway shooting」や「ノルウェー攻撃 Norway attacks」という名称を利用している(例:BBC News – Norway Attacks)。当初は英語のものも「テロ」として報道されていたことを考えると、これは非常に興味深い現象である。少し穿った見方をすれば、「ムスリムが行えば彼はテロリストだが、白人が行えば彼は銃撃犯と呼ばれる」ということである。

ウトヤ島

犯行がウトヤ島で行われたということはかなり象徴的な意味を持っているようである。Savage Minds の記事によれば、ウトヤ島は労働党の青年支部 (AUF) によって所有され、現在の首相であるイェンス・ストルテンベルグ氏も青年時代サマーキャンプをここで行ったことがあるという。数百人もの政治的意識を持った若者が政党の主催するサマーキャンプに参加すると言うことは、イギリスではもちろん、日本では考えにくいことである。

北欧におけるナショナリズム

あまり日本では知られていないことかもしれないが、北欧諸国は非常にナショナリズムの強い場所である。人類学で言うバナル・ナショナリズム─日常において幾度も現れ、そのたびに再強化されていく類のナショナリズム─が強烈に存在する。国旗の掲揚や北欧内部での対抗意識もそうであるし、何よりも「小さな国ノルウェー」という意識がとても強い。今回の事件を受けた言説にも、そのようなバナル・ナショナリズムがよく見て取れる。それは、同じナショナリズムとは言っても、東日本大震災以降の日本におけるそれとは多少性質を異にするものである。

多文化主義への反発と欧州的文脈

アンネシュ・ブレイビクの犯行は、彼が記した長い長いマニフェストで示されているように、多文化主義への反発が根本にある。すなわち、これは親イスラームではなく反イスラームによる犯行なのである─当初多くの分析官が考えたこととは真逆である。ブレイビク容疑者は多文化共生の考え方を憎悪し、そのような政策を自らのマニフェストの中では「文化的マルクス主義」という言葉で批判している。その一方で礼賛されているのが日本である。Japan Probe の記事によれば、彼の組織「テンプル騎士団 Knights Templar」が理想とする社会は「日本および韓国、あるいは台湾モデル」で、社会の同質性に基礎を置くものであるという。

欧州における右翼勢力の増大は幾分か前から問題になってきてはいたが、この事件はそれが一つの臨界点に達したものと見ることもできるであろう。最近になってイギリスのキャメロン首相やドイツのアンゲラ・メルケルなども以前からの多文化主義的な政策を批判し、英国においては移民への規制がますます強まっている(ところでこの路線で修士課程を修了した学生に対する Post Study Work Visa が撤廃される。私はギリギリ申請できるが、2011年入学の学生は申請が不可能になってしまう)。次回のフランス大統領選では国民戦線のマリーヌ・ル=ペン(娘)が有力候補という。この事件は、このような文脈の中に位置づけて紐解かれなければならない。

すなわちこれは、単なる「頭の狂ったローン・ウルフ」による犯行なのではない。これはデュルケム的な意味で「正常」な犯罪であって、社会全体の傾向を示すものとして分析されなければならない。今後、益々欧州情勢の注視が必要であろう。

続報: オスロ爆発・銃乱射、死者100人近く、犯人は極右の男か

オスロ事件から一夜明けた欧州。大分日本語の情報も揃っているようだ。以下、覚書。

Oslo bombed building

犯行はノルウェー人極右によるものであることがほぼ確定しつつあるようだ。容疑者の名はアンネシュ・ブレイビク、32歳。17日には Twitter アカウントを開設し、以下のようなツイートを残している: “信仰を持つ一人は、利害しか持たない十万人と同じ力を持つ。”

オスロ市内の爆発の方は、車に搭載された爆弾によるものであるらしい。こちらの方がテロとしては大規模のように思えるが、そちらは様々な幸運が重なって死者は最終的に7人というところで落ち着いたようである。しかし銃乱射の方はかなりひどい状況で、現在(英国時間 BST 23 Jul 06:00)BBC が報じている限りでも80名以上の死者が出ているという。事件発生当時は労働党の青年大会が開かれており、何百人という人間が小さな島に集結していた。またストルテンベルグ首相の講話もある予定だったという。犯人はオスロでの爆発に関係したチェックを行うと言って人を集めたところに銃撃を放ったと報道されている。

何にせよ、国際テロの線はほぼなくなり、国内の、それも単独犯による犯行である可能性が随分と強まってきた。昨日犯行を認めたとされるムスリムの団体は「そもそも存在しないかも知れない」とまで言われている状況である。New York Times の報道は、「単独の政治的過激主義者」による犯行であると断定している。どちらにせよ、政府は日常的な警備体制の大幅な再検討が必要である。ノルウェー国内にどのような右翼勢力が存在するのかについては私の臆見を書き連ねるよりも専門家のレポートを待った方が良いであろう。それが英語でしか存在しないようなら、また翻訳を行いたいと思う。

[追記 BST 07:06]New York Times がかなり秀逸な犯行現場の図解を提供している。Scenes of the Attacks in Norway – Graphic – NYTimes.com

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速報: ノルウェー首都・オスロで爆発、続いて銃撃事件、計17人が死亡

日本語の情報が少ないようなので、手早くまとめておく。犯人にかんする最新の情報については、続報: オスロ爆発・銃乱射、死者100人近く、犯人は極右の男か | The Long Wait を参照して欲しい。

7月22日の昼下がり、ノルウェーの首都、オスロで爆発があった。狙われたのは政府のビル。首相のオフィスが入った建物も爆破された。現在(英国時間 BST 21:00)確認されている限りで7人が死亡、少なくとも15人が重軽傷を負った。金曜日であったため既に職場を離れている職員が多かったため死傷者は通常より少なかったが、それにもかかわらずこれは第二次世界大戦以来最大の事件であるという。首相は爆発が起こった際オフィスにおらず生き延びた。動画は爆発直後のオスロ。

その後、ウトヤ島で行われていた政権党である労働党の青年集会で銃撃事件が発生した。ここでは10人が死亡。逮捕された犯人は警察官に変装しており、市内の爆発の現場にもいたことが確認されている。地図はウトヤ島の場所。

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犯行がどのような組織あるいは個人によって、どのような意図で行われたのかは未だ判然としない。国際テロであるならば、アルカイダが以前から犯行を予告している国家のうちにノルウェーも入っているということである。ムハンマドのカリカチュアを描いた問題や、アフガニスタンでの作戦に関わった過去がノルウェーにはある。しかし、これらの事実は決して確定的とは言えないし、政府機能と直接的には関係のない労働党関連の組織を狙ったという事実から、国内の反政府組織である可能性もある。BBC の情報によれば、銃撃の犯人はノルウェー人とみられる白人によって為されたノルウェー人であることが確認されたということであるが、これがどのような事実に結びつくかは未だ明瞭ではない。現在のところ、判断を可能にする十分な情報はあるとは言えない。

[追記4 BST 22:00]首相の談話では、どのような集団がこの事件に対して責任を持つかは明示されなかった。

[追記3 BST 21:44]現在ノルウェーでは厳戒態勢が敷かれており、外出及び携帯電話の利用を自粛することが推奨されている。

[追記2 BST 21:40]現地の新聞である Nationen によれば、警察は、「これはテロではなく、ノルウェー人が既存の政治システムを狙ったものではないかとも考えている They suspect that this is not terrorism, but a local variant aimed at the existing political system.」という。

[追記 BST 21:30]CNA 分析官である Will McCants (@will_mccants) によれば、アンサール・アル=ジハード・アル=アラミ、あるいは「世界的ジハードの助力者たち」が犯行を認めたという。New York Times が報じた。続報を待つ。BBC の情報によれば、この組織は今回の事件とは関係がない、とテロリズムの専門家は言った。

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