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独立党の支持者は他の国の料理を食べない

The Guardian に少し面白いデータが出ている。連合王国独立党の支持者に関する統計である。

  • 「他の国の食べ物をよく試す」と答えた人の割合が最低(51.2%)。
  • 「他の文化や国に興味がある」と答えた人の割合が最低(55.3%)。
  • 「ソーシャル・メディアを使わない」と答えた人の割合が最高(28.2%)。

どの項目についても、正反対の極にいるのは緑の党の支持者であるらしい。また、なかなか面白いことに、最初の二つの項目については、

独立党 — 労働党 — 保守党 — 自民党 — 緑の党

という並びになっている。ただし、労働党と保守党の差は殆どない。

欧州議会選について思うこと

欧州議会選が行われ、フランスの国民戦線 (Front National) やイギリスの連合王国独立党 (UK Independence Party) — いつから連合王国は独立でなくなったのだ? — が躍進したという。

まあ、そうだろうな、と思う。フランスで国民戦線が支持を伸ばしていることは今年前半に行われた地方選挙で明らかであった。イギリスにおいても、移民の受け入れ — 特に問題とされているのはヨーロッパからの移民だ — と多文化主義政策のバックラッシュとして、独立党は労働者を含む層から急速に支持を伸ばしている。スウェーデンだって、オランダだって、欧州連合に加盟してはいないがスイスだって、どこもナショナリスティックな気分が高まっていることは世界的に同じだ。もちろん、日本でも。

「ヨーロッパ市民」という幻想は、結局、今のところは、より強いリアリティを持って迫ってくる「ネーション」という想像の共同体を挿げ替えることができていない。どっちにしろ幻想であることは変わらないのだが、ネーション=ステートという制度的枠組みによって絶えず再生産を行うことができる点が大きく違う。ヨーロッパ、という地政学的想像は、未だ共同体としての同一性を持ちうる程の強靭さを持ち合わせていないのである。

それを何とかするのが憲法パトリオティズムであったはずだが、そもそも「前-理論的」に植え付けられる共同体の想像を、ガチガチの理性的な枠組みによって支えようということに袋小路がある。もちろんリベラル・ナショナリズムは現状をただ追認し変革を生み出す力を全く持たない、規範的には出来損ないの理論だが、かと言って憲法パトリオティズムが現状を変革する力を持つかといえば、否、という気がしている。

共同体を現実的に想像させるために必要なのは理論ではなく政治的行為なのである。それを構成的と呼んでもよいし神話的と呼んでもよいが、その指示内容は変わらない。問題は、それをいかにして、誰が行うか、ということである。

ウクライナ / クリミア危機: 中央アジア, サウス・ストリーム

現在のウクライナ情勢に関する覚書。中央アジア諸国にとって今回のロシアの動きが持つ意味、及び欧州連合にとって安全保障上ロシアへのエネルギーの依存がもたらす問題について。

ウクライナ情勢おさらい

ウクライナがどういう状況にあるかをざっとおさらいしておこう。

  • 2 月 18 日: ウクライナの首都キエフで大統領権限を制限する 2004 年憲法の復活を求める反政府派の市民と警察が衝突、以後数日にわたって騒乱拡大。
  • 2 月 21 日: 2004 年憲法の復活が全会一致で議決。ユリア・ティモシェンコ元首相釈放。
  • 2 月 23 日: ウクライナ議会、ヤヌコビッチ大統領の職務権限を停止。トゥルチノフが大統領代行に任命される。
  • 2 月 27 日: ロシア軍とみられる武装集団が、「クリミア自治共和国 ((しかし、「自治共和国」という名前は皮肉であると思う。本当に自治を行っているなら、名前に「自治」とは付けないだろう。)) 」として特別な地位を憲法上与えられているウクライナ南部のクリミア半島の政治的要地を占拠。
  • 3 月 01 日: ロシア議会、クリミアへのロシア軍の派遣を承認。
  • 3 月 06 日: クリミア最高評議会、ロシア連邦への参加を議決、住民投票開催を決定。
  • 3 月 16 日: クリミア自治共和国およびセヴァストポリ特別市で住民投票。圧倒的多数の賛成によりウクライナからの離脱およびロシア連邦への加盟が決定される。
  • 3 月 18 日: プーチン露大統領、クリミア及びセバストポリ特別市のロシア連邦加盟に関する条約に調印。

もちろん、厳密にいえば、この住民投票はウクライナ憲法に違反している。憲法では、「領土の変更問題は国民投票のみで議決できる」と規定しているからだ。日本国外務省もこの住民投票は無効であり、承認しないとの声明 を出しているし、G7 および欧州連合としても ロシアによるクリミア併合を批判する声明 を発表している。

プーチン大統領はコソボの例を出して、西側がこの住民投票を認めないのはダブルスタンダードであり、また、現在のウクライナの政権に正統性はないと主張しているが、国際連合の安全保障理事会においても、他国の支持を得ることはできなかった。

中央アジア諸国の受ける衝撃

さて、第一の記事だ。Russia-Ukraine Crisis Alarms Central Asian Strongmen – ISN Blog によれば、今回のウクライナ・クリミア危機は、中央アジア諸国にとって、ふたつの面で大きな衝撃である。ひとつは、自国の権威主義体制を、ユーロマイダンがヤヌコビッチを打倒したように、人民による運動によって転覆されてしまうのではないか、というおそれ。もうひとつは、ロシアがクリミアで行ったことを、自国のロシア人居住地域においても行われるのではないか、というおそれである。

この地域には、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、キルギスがある ((厳密には、東トルキスタン、すなわち中華人民共和国新疆省も含める場合があるが、ここでは省く)) が、キルギス以外の国々は権威主義な体制を保持している。カザフスタンでは ヌルスルタン・ナザルバエフ 大統領がソ連崩壊以後一貫して指導者の地位に付いているし、ウズベキスタンでは イスラム・カリモフ 大統領が、タジキスタンは エモマリ・ラフモン 大統領が似たようなことをしている。トルクメニスタンは今でこそ多少改善したようだが、サパルムラト・ニヤゾフ 大統領時代はひどいものだったらしいし、いまでも民主党による一党独裁が続いている。

つまり、これらの国々の政権は、常に革命におびえているのだ。ユーロマイダンの成功にあやかって政権打倒のためにデモをしだす連中が現れたらたまったもんじゃない。その上、カザフスタン北部やにはロシア人が大量に住んでいる。「住民投票の結果この地域はロシアに合流しますね」なんて言われたら踏んだり蹴ったりである。今のところ、これらの国のメディアは沈黙を保っているということだが、これからはどうなることやら。

キルギスは比較的民主化が進んでいる国だが、経済的にはロシアに大きく依存しているため、ルーブル下落の影響をもろにくらってしまっている。通貨ソムはクリミアが占領てから 15% も下がり、ドルとソムの交換を拒否する業者も現れているらしい。ロシア連邦がくしゃみをすれば、キルギスは風邪をひく、というわけである。

欧州連合、ロシア、サウス・ストリーム

第二の記事。After Ukuraine: Enhancing Europe’s Gas Security は、ロシア・ガスプロムに依存しきっているヨーロッパのエネルギー政策の問題点を指摘しながら、将来に向けた提言を行うものだ。

シンクタンクのペーパーというだけあって、わかりやすくまとまっているので、ポイントをざっと訳す。

筆者の見解では、そもそもロシアに対するエネルギー的な依存がなければ、そのクリミア「侵略」に対してより強い発言・行動を行うことができたはずである。また、現在建設中の「サウス・ストリーム」は、この関係を欧州にとってさらに不利なものにする ((サウス・ストリームに関しては、「サウス・ストリーム」とは何か – Kousyoublog も参照。)) 。これは安全保障上の大きな問題である。

これを逆手に取る唯一の方法は、それが欧州の厳しい独占禁止政策に容赦なく晒されるようにすることだ。他のエネルギー資源や供給源の存在を意識しつつ、サウス・ストリームに関するいかなる例外的処置に対しても断固として反対することが重要である。

背景

  • 2011 年までは、ガスプロムは、主に陸上のパイプラインを利用して 190 bcma (年間1900億立方米) の天然ガスを欧州連合に対して供給していた。その8割はウクライナを経由していた。
  • 2011 年にバルト海を通ってロシアからドイツへとガスを供給するノルド・ストリームが開通。2012 には 55 bcma に達した。コストは 160 億ユーロ。独・仏・蘭の共同運用。
  • 2015 年からは、黒海を通ってブルガリア、セルビア、ハンガリー、スロベニア、そしてオーストリアへとガスを供給するサウス・ストリームが開通予定。コストは、予想では 550 億ユーロ。主にロシアによる国内投資。現在ウクライナを通っているガスの少なくとも 2/3 がサウス・ストリームを通る。伊・独・仏共同運用。欧州内を通る部分はガスプロムと当該国の共同開発。
  • ガスプロムは現在、サウス・ストリームの規制に関して欧州連合と諍いを起こしている。欧州連合の規定するルールからの例外を要求しているわけではないが、パイプラインの容量に関してガスプロムが長期的に決定権を握る「オープン・シーズン」式の導入を要請している。
  • ロシア中央銀行によれば、2012 年の欧州及びトルコへの輸出量は 113 bcm であった。Q3 までの数字をベースに、2013 年の輸出量は 136 bcm と予想される。これは欧州連合のガス消費の 30% に当たる数字。

主張

  • ロシアは、天然ガスの第一供給者というポジションを利用して、競争的な欧州のエネルギー市場を汚染しようとしている。
  • 欧州連合は、その市場の大きさをロシアに対する優位に変換しなければならない。
  • サウス・ストリームのような新しいパイプラインは、欧州連合の戦略的自立性を弱めるため、反対せねばならない。
  • 欧州連合は、「競争的な市場」というビジョンにこだわるべきだ。自らのルールを曲げてはならない。

様々なアクターの思惑が噛み合うこの問題だが、これからこの危機がどうなるかについて、わたしは正直なところ見通しを持たない。一部では「冷戦の再開」という声もあるようだが、ロシアには当時のソ連ほどの力は既に残されていないだろう。米露二極化というよりかは、冷戦崩壊以降継続してきた多極化傾向の更なる先鋭化、という見方が正しいように思われる。

もっと日本語は中国語から単語を輸入すべき

元来日本の知識人は西洋から横文字を輸入して漢字に直すということを明治維新以降せっせとやっていたが、ある時点から何故かカタカナのまま輸入して本意を明らかにせずに使うようになってしまった。一方中国では、カタカナという便利なものが無いためすべての概念は漢語に訳さざるをえない。日本から輸入した単語も多くあるが、最近になって出てきたものはほとんどが独自訳で、大陸中国と台湾・香港などで訳が違うものもずいぶんあるらしい。

そういった新しい単語に関して、現在日本ではカタカナを使っているが、漢字としても使えたほうが良い単語はたくさんあると思う。例えば…

全球的 (ぜんきゅうてき)

  • 意味: グローバル。
  • 文例: 「全球的視点に立って物事を考えることの必要性が叫ばれている」。
  • 応用: 「全球化」 – グローバリゼーション。「全球化全球化うるさいなぁ」。

網際網路 (もうさいもうろ)

  • 意味: インターネット。「網際」あるいは「網路」だけでも同じ意味を持つが、四文字熟語としても使える。
  • 文例: 「網際網路を駆使して調べた結果、ヤツの居所が判明した」。
  • 応用: 「網民」 – ネット民。「網民どもがまた釣りに群がってやがる」。

電脳 (でんのう)

  • 意味: コンピュータ。これは日本でも割と用例があるとは思うが、もっと主流になるべき。
  • 文例: 「新しい電脳を買ってきたら、うまく設定できない。」
  • 応用: 「電脳化」 – コンピュータライゼーション。「電脳化が進んでいる中、網路を利用した販路を開拓することが必須だと考えます」。

数拠 (すうきょ)

  • 意味: データ。
  • 文例: 「もっと多くの数拠を集めなければ、この仮説は証明できない。」
  • 応用: 「数拠分析官」 – データ・アナリスト。「当社では数拠分析官を募集しております」。

特に電脳や情報技術関連の用語はカタカナが多すぎるので、より漢字化を推し進めたい。普段はカタカナを利用していても、「ちょっとこの文章には漢語を使いたい」というときに代替となる単語があるとありがたいものだ。

「日本を取り戻す」

安倍自民党は前回の総選挙に際して「日本を取り戻す」なるスローガンを編み出し、「誰からどのようにして取り戻すというのか」という批判を買ったが、誰よりもこのスローガンを叫ぶべきは、右翼の側ではなく左翼の側であると感じる。

今日、「日本」を主題とする物語は右翼の側によって専有されすぎている。この点については以前も長い文章を書いた。ネーションを主体とする物語を解体し超越せんとする試みは最終的には失敗に終わったように思う。我々は今でも国民国家を生きており、ネーションに関わる物語を何らかの形で語らねばならない。問題は、その際に有効な言説が左翼の側に非常に乏しいということである。

これは「敗戦後論」に関わる加藤典洋と高橋哲哉の論争に、そして究極的には、戦死者たちをどう弔うかという問題へと関わっている。亡霊たちの供養が終わるまで、戦は終わらないのだ。

千鳥ヶ淵戦没者墓苑に行ってきた

2013年10月、真夏のような暑さの土曜日。千鳥ヶ淵戦没者墓苑を訪れた。

表の石碑

表の石碑

この墓苑は国営であり、第二次大戦の海外戦没者およそ250万人の遺骨が納められている。

海外戦没者が眠っていることが記されている

海外戦没者が眠っていることが記されている

靖国神社からは歩いて数分の近さである。土曜日だったが、人はほぼいなかった。

中央献花台

中央献花台

もっと早く書くつもりだったのだが、この施設について、いかに、何を語って良いものか、いまいちわからない。気の利いたことを書こうと思いながら、記事の公開ボタンを押せずにいた。

とりあえず一旦、写真をアップするだけにしておく。第二次世界大戦の戦没者に対して、いかにして向き合うべきか、という問題には、またの機会に詳しく触れてみたいと思う。それこそが、日本の戦後社会の根幹にある問題であるように、わたしには思えるからだ。

「NHK 経営委員、南京大虐殺を否定」を BBC が報じる

まったく意外性のない話だが、さらっと訳す。BBC News – Governor of Japan broadcaster NHK denies Nanjing massacre である。

[追記]: The Guardian は、Japanese broadcaster’s board member praised ritual suicide of rightwinger と題して、百田氏の発言にも触れながら、長谷川三千子氏による右翼活動家の自殺を礼賛する追悼文を報道している。


NHK 経営委員、南京大虐殺を否定

日本の公営放送である NHK の経営委員が、南京大虐殺を否定。NHK 会長の従軍慰安婦をめぐる発言も記憶に新しい。

この発言は、百田尚樹氏によって、東京都知事選挙に出馬した右翼候補を支持する演説の中でなされた。

百田氏は著名な小説家で、12人いる NHK 経営委員の一人。昨年末、安倍晋三首相によって選出された。

朝日新聞によれば、百田氏は、「1938年に蒋介石が「日本軍が南京大虐殺をした」とやたら宣伝したが、世界の国は無視した。なぜか。そんなことはなかったからだ」と述べた。

戦争において虐殺はどちらの陣営によっても行われており、そのようなことを日本の子供らに教える必要はない、と彼は続けたという。

同新聞によれば、この発言は2月3日、東京での街頭演説中になされた。

この報告について、日本の菅義偉官房長官は、「報告は聞いているが、(個人的な意見の表明は)放送法に違反しない」と述べ、政府としてのコメントを避けた。

放送法は、政党の役員が経営委員になることを禁止しているが、党員に関してはこの限りではなく、他の政治的活動に対する制限もない。

百田氏の発言は、籾井勝人新 NHK 会長が、日本軍による慰安婦の利用は戦時中どの国でも行われていた、と発言した数日後になされた。

会長は「そういった女性は戦争をしている度の国にもいたし、フランスやドイツもそうだ」と述べ、国際的な怒りに関して「不思議だ」のコメントした。

その後彼は謝罪し、「ルールに関する理解を欠いていた。私の思慮不足で、あのようなコメントをしたことは大変不適切だった」と言った。

中国は、1937〜8年の冬に日本軍が南京入りしてから、およそ30万人の市民と兵士が殺害されたと主張。日本の歴史学者の中には、この数字に関して論争を行なっているものもいる。


日本の右傾化はどこまで行くのか。

冬季オリンピック 2014: 「ゲイのいない街、ソチへようこそ」

この記事は、Winter Olympics 2014: Welcome to Sochi – a city where ‘there are no gay people’ の適当訳である。多少語尾をロシアっぽくしたが概ね原文ママだ。正確性は保証しないので、引用したい奴は原文を参照しろ。


プーチン大統領は 2014 年冬季オリンピックへのゲイの参加を歓迎すると主張したが、そのメッセージをソチ市長へと伝えたものはいなかったようだ。アナトリー・パホモフ市長は、BBC のドキュメンタリ「パノラマ」の取材でソチを訪れた我々に「この街にゲイはいない」と能書きを垂れた。

プーチン氏はまた、国際オリンピック委員会とともに、ジャーナリストがソチを訪問することを歓迎する声明も出しているが、ロシアの安全保障組織 FSB の兵士は私を含む「パノラマ」クルーを拘留し、パスポートを押収しやがった。

ロシア南西部に位置するこのビーチリゾートについて何かしら知っている人間であれば、パホモフ氏の主張が全くの嘘であることは誰にだって分かる。前ソチ市長選で敗北したボリス・ネムツォフにこの発言を伝えたところ、「ソチにゲイがいないだって?全く信じられん!」と腹を抱えて笑い出してしまったくらいだ。

「ゲイに対するヤバい偏見がある場所もあれば、そう悪くない場所もあるってこと」とは、街で一番のゲイ・バーにパフォーマーとして勤めるドラァグ・クイーンのミス・チューチャの言。注意深くフレージングされているが、ゲイがこの街に存在することを指し示している。

パホモフ氏が「パノラマ」に対して述べたところによれば:「我々のホスピタリティはロシア連邦の法律を守り、自身の性癖を他者に押し付けない限り、全員に与えられる」。「ソチではゲイは自身のセクシュアリティを隠さねばならないってことか?」と問うと、市長は「いいや、好きにしたらいい、自分の人生だからな。だが、ここで許容されるとは思うな。我々の街には、奴らはいないんだから。」と言い放った。

私が反論すると、彼は自身の発言を撤回し、「確たる証拠はないが、俺は一人だって知らないね」と主張を弱めた。

現場の取材をしようとするとすぐに、キンキラに固められたオリンピックのメッキが剥がれだす。我々は、アクシュティア Akhshtyr 村の検問所を通りがかった時だ。昔から別に大した場所じゃなかったんだろうが、今ほど醜くなかっただろう─オリンピックの建材に使うための石を切り出すための採石場がクソのようにそびえ、その穴を今度は燃えないゴミで埋め立てるという。大型トラックが一時も途切れずあちこちを走り続け、我々の車のそばを邪魔そうに走り抜けるたびにエンジン音が轟いたが、我々は動くこともできなかった。

兵隊は FSB の奴らだった。兵隊長が「お前らは通れねえ」とロシア語でがなる。しかし、我々だって仕事だ。通らねばならない。沿岸のオープニング会場と山側のまっさらなリゾートを結ぶ幹線と鉄道は 50 億ポンドかかると言われ、ルイ・ヴィトンのバッグで舗装したってそんなにかかるわけなかろうと批判者は言う。村人が言うには、この幹線のせいで村からソチには行けなくなったそうだ。行政はバイパス・ルートを作ると約束したが、それが日の目を見るのはいつになるやらわからない。だから、村人みんな─学童もだ─泥んこの道を以前よりも一時間多くかけて運転しなけりゃならない。

私は兵隊長を睨み返して、「プーチン大統領が国際オリンピック委員会と約束したはずだ。ジャーナリストのソチへの訪問は歓迎されている」と言ってやった。同僚のニック・スターディーが通訳すると、兵隊長の表情に少し不安がよぎる。彼は若く、ブロンドで、大きな銃を持っていたが、大統領を引用した異邦人と一悶着起こしたいわけではなかった。

彼はパスポートを押収し、「おまえらがジャーナリストだとどうやってわかる?」と我々の地位に疑問符を付した。我々はロシアのマスコミ用パスを持っていなかった─3週間前に申請を行ったにもかかわらず、モスクワの外務省が我々の写真を印刷できず、そのことを我々に伝えることもしなかったからだ。

私は国際オリンピック委員会に電話し、FSB が我々のパスポートを押収したと文句を言ってやった。すると、役人から電話がかかってきて、アクシュティアにロシアのマスコミ用パス無しで立ち入った我々を責めだした。やれやれ…

結局、FSB は我々のパスポートを返してくれなかったが、足で検問所を通って村人を撮影することを許可した。村人たちは採石場について文句を言った。これはロシア鉄道によって所有されているもので、社長のウラジーミル・ヤクーニンはプーチン氏の友人だという。市長が言うには、この村の問題はオリンピックのあとで解決されるだろうということだ。

FSB の検問所に戻ると、奴らはパスポートを返却するためには我々が「国境地帯」に違法に侵入したことを認める書類にサインしなければならないと言い出した。意味がわからない。言い合いの後、FSB の一人が、「私はサインしない」という書類を作り、そこにサインするというのはどうか、と提案してきた。全く馬鹿げたことだが、それが終わると、我々は一応自由だった。

ソチ・オリンピックに関して言えば、見かけと中身が一致するものは何もない。例えば─プーチン大統領は大会開始直前、元億万長者石油王のミハイル・ホドルコフスキーや、パンク・バンド「プッシー・ライオット」を含む囚人 2000 人に対して恩赦を言い渡した。これはロシア政府がその抑圧的傾向を正そうとしている仕草だと受け止められるだろうか?

「ムーングレイド」の話をしよう。これは山上にある秘密基地で、ヘリコプターによってのみアクセスが可能だ(ジェームズ・ボンドの映画に出てくる悪役の根城みたいだろ)。昔国立公園だった場所に作られたこの施設は、公式には気象研究所だが、どうやら大統領用の秘密のスキー・ロッジらしい。

環境活動家のエフゲニー・ヴィティシュコはムーングレイドに行ったことがある。「ウラディーミル・プーチンはあそこをあんまり気に入ったんで、そこに別荘をつくることにしたんだ」という。ヴィティシュコはこの近郊にロッジが建設されることに反対する運動を起こしたことがある。「この別荘に対する熱狂はまったく馬鹿げていて、戦わねばならないものだ─我々はまさしくそうしている。裁判所がそれを罪だと認めたとしても」

ヴィティシュコはフェンスに落書きを行った疑いで起訴された。本人は否認しているが、判決は禁錮3年だった。彼が言うには、これは彼のプーチン氏に対する抗議運動に起因しているという。大統領はソチ・オリンピックは環境にやさしいものになると約束したが、現状はご覧のとおりだ。

プーチンは、ソチ・オリンピックを尋ねるジャーナリストにとって、それは「忘れられない」経験になるだろう、と言い切った。まったくそのとおりだ─度重なる停電、まったくばかげた拷問、蔓延する汚職、武装秘密警察によるパスポートの押収、どれもまったく忘れがたいものだった。

ソチは変わった。オリンピックに向けた建設プログラムは総額 300 億ポンド、2010 年のバンクーバーでかかった費用の 25 倍だ。ネムツォフはこの大会が「史上最も汚職にまみれたオリンピック」だという─プーチン氏もパホモフ氏も否定しているがね。

2012 年にはこの街では 1000 回の停電があった。なぜか?オリンピック・リゾートを山中に建設するために電力を使い切っちまったからさ、と批判者は言う。我々も滞在中のホテルで停電を経験した。ろうそくを抱えてうろつくのは楽しかったが、プーチンが演出しようとしている近代化された強国のイメージとはかけ離れたものだ。

労働者はまともな給料が払われないと文句を垂れている。それに声を上げた電気技師マルディロス・デメルチャンは、捏造された罪状で警察に拘留されたという。

「やつらはふたりでおれを両方から殴り始めた。おれは床に倒れて、意識を失いかけたが、やつらはおれを起こして椅子に座らせたんだ。ひとりが、「おい、もう満足か?それともまだ殴らにゃならんか?」と言うんだ」

それから彼は拷問され、鉄の棒で性的な陵辱を受けた。彼は警察を訴えようとしているが、警察は彼を名誉毀損で訴えた。

人生の明るい面を見れば、FSB に拘留されたことはこの国で何が起こっているのかを理解するにはよい経験だった。当局は笑顔の仮面を被っているが、ふとした瞬間にそれがはずれると、警察国家の尻尾がちらりと見えるのだ。

John Sweeney reports on Putin’s Games for Panorama, on BBC One Monday night at 8.30pm


ロシアの人名に関しては自信がないので、正確な日本語表記を教えていただけるとありがたい。

ヘーゲル国務長官と小野寺防衛大臣の電話会談に関する声明全訳

以下は、Readout of Secretary Hagel’s call with Japan’s minister of Defense Itsunori Onodera の全訳である。これは、NHK が「米国防長官「日本は周辺国と関係改善を」」として取り上げている。


国防総省報道官ジョン・カービー海軍少将は以下の声明を発表した:

「今朝、チャック・ヘーゲル国務長官は、小野寺五典防衛大臣と電話で会談し、沖縄における米軍再編成のために必要不可欠である、キャンプ・シュワブ=辺野古岬における普天間基地移設先施設建設のための埋め立て要求認可を実現させるための日本国政府の努力に対して感謝の意を示した。

また彼は、米国と日本の間で最近結ばれた、環境保全問題に関して日米地位協定を補足するフレームワークの形成へ向けた交渉を行う合意の重要性に触れた。

ヘーゲル長官と小野寺大臣は、2013年10月3日の2+2宣言で明言された同盟のイニシアチブの実装に関する議論を行った。これには、日本での第二の TPY-2 ミサイル防衛レーダーの配備、および透明なプロセスの重要性が合意された日米ガイドラインの前向きな改定が含まれる。

ヘーゲル長官は、日本がその隣国との関係改善、および地域的平和と安定という共通の目標編向けた協力の促進のために努力することの重要性を強調した。ヘーゲル長官は、21世紀における安全保障上の挑戦に見合うかたちで同盟を強化していくための二者協議が継続していくことを楽しみにしている、と述べた。」

米国の “Disappointed” はどれくらいの事態か

いくらか議論に混乱が見られたので、意味を明らかにする。

12 月 26 日の安倍総理による靖国神社参拝を受け、米国大使館はすぐに批判的声明を発表。その中で以下の表現が使われた。

the United States is disappointed that Japan’s leadership has taken an action that will exacerbate tensions with Japan’s neighbors.

disappointed は大使館による公式の訳では「失望」という言葉が当てられた。かなり強い表現であるといえるだろう。しかし、以下のように論ずる記事も現れている。

disappointedってのはね、ツーカー同士が思った通りに動いてくれない時に発生する言葉で、信頼関係が以前からあって今も継続していないと使えないし、コンビ解消レベルのdespairとは違うのよ。

これは真実か。あるいは、そもそもこの disappointed という用語は、大使館によってどのような場合に使われるものなのか。

検証は容易である。"disappointed" site:usembassy.gov で検索せよ。

最初にヒットするのは最も近く発表された日本に対する声明であるが、二番目に来るのはロシアのミサイル計画に関するものである。

The United States is disappointed that Russia plans to deploy short-range missiles near the border with Poland and Lithuania, a State Department official says.

米国は、ロシアがポーランドとリトアニアの国境付近で短距離弾道ミサイルを配置することに対して失望 disappointment を表している。

他の用例としては、中国における人権をめぐる状況が 2003 年に悪化したことをめぐる声明や、ボスニアにおける改憲運動の失敗をめぐる声明がある。

ここから言えることは、他国政府の行動が、もともと米国が希望し、行動を起こしてきた方向とは異なるものであった場合に disappointed が利用されているということである。当該国と米国が「ツーカー関係」であるかに関係なく、あるアウトカムが米国の考える正義と期待に沿わなかったものである場合に使用されるのである。

さらに言えば、先程挙げた国のリストからもわかるように、通常は、この用語は第一級の同盟国に対しては利用されていない。例えば次のドイツに関するコンドリーザ・ライス元国務長官の声明を見てみよう。

QUESTION: Were the people of America disappointed because of Germany’s opposition to the war against Iraq?

SECRETARY RICE: Well, it is always hard when friends disagree and it is hard on people in both countries. But the good thing is that the foundation of our relationship, our values, are so strong that the relationship has re-emerged strong and vibrant and ready to look forward. It does not mean that there won’t be differences in the future, but I do hope that we can always start from the basis from what it is that we have to do together. If we disagree about tactics, that’s fine. But our goals should never be in question.

さっと訳す。

質問: アメリカの人々は、ドイツのイラク戦争に対する反対に関して失望しましたか。

ライス長官: まあ、友人の間で意見の相違が見られるときはいつも大変ですし、両国の人々にとってもそうです。しかし良い点は、我々の関係の基礎となる価値観の強さによって、我々の関係は再度強く、活気に満ちたものとしてあらわれ、未来を向いているということです。これは未来には相違が存在しないということではありませんが、私の希望は、我々が何をしなければならないかということについて、常に基本から共に始めることができるだろうということです。戦術に関しての意見の相違は問題ありません。ただ、目的は疑問符を付けられるべきではありません。

イラク戦争は米国の考える正義に合致したものであり、それに対するドイツの明確な反対は(質問が示唆するように)失望 disappointment を引き起こしても不思議ではないものであった。にもかかわらずライスはここで、「ゴールが共有されているのであれば、戦術に関して多少意見の相違が出ることは問題ない」という言い方で、事実上ドイツの反対を受け入れているのである。

筆者は他にも、イギリスやフランス、オーストラリアなどに関して失望を表している声明を探してみたが、うまく見つけることはできなかった。(追記:イギリスに関しては1件見つけた。末尾に追加してある。)

同盟国に対して米国が失望 disappointment を表明することは異例である。通常この用語は、ロシアや中国など、明確に敵対することは避けたいが、批判はしなければならないような国家に対して利用されている。だからこそ今声明は、最初に「日本は米国にとって同盟国である」ことを主張し、フォローを行っているのだ。

明確な敵国に対しては condemn が利用される。北朝鮮のミサイル発射ビルマのアウンサンスーチーに対する自宅拘禁刑宣告などである。ほぼありえないが、さらなるナショナリズムの高まりによってこのような言葉が声明に現れることだけは避けなければならない。

ちなみに大使館による声明で despair が他国の行動を咎めるために利用した例を見つけることはできなかった。


追記: イギリスに対するものを1件、カナダに対するものを1件見つけた。

どちらも米国にとってクリティカルなイシューに関するものだ。アメリカはとうもろこしの最大の生産・輸出国であり、その利権を守ることは米国農業にとって非常に大きな意味を持つ。また、ゲイリー・マッキノンは「史上最大の軍事システムハッカー」であり、NASA のシステムにクラッキングし続けた彼を裁くことは米国にとって非常に大きな関心であった。


追記2: 複数の方からイスラエルに対するものもあるという指摘を受けた。声明は Clinton, Prime Minister Fayyad on Aid to Palestinian Authority の中で、ヒラリー・クリントン国務長官の弁による。これはイスラエルが「東エルサレムのセンシティブな地域で新しい住宅の建設を予定していること」に対するものである。詳しくは本記事のふむ。氏によるコメントを参照していただきたいが、これは米国だけではなく関係各国の調停に対する努力を無視するもので、deeply disappointed というより強い表現になっている。また、日本外務省も批判的な談話を発表している。

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